傘はある

健康で文化的な愛にあふれた生活

怪我の功名

わたしは鈍臭い。
就職して2ヶ月で仕事中に怪我をして、さっそく労災保険のお世話になった。

子供の頃から怪我が多く、ふつうに歩いていただけなのに電柱にぶつかったり、ふつうに自転車に乗ってただけなのに後輪に足が巻き込まれたり、ふつうに電車を待ってただけなのに駅のホームに落ちたり、どうも鈍臭い。

小さい頃、なんの段差もない平坦な道を歩いてただけなのにしょっちゅう転んでいた。
それがあまりにも多いので親や先生が「骨に異常があるんじゃないか…」「神経系の病気なんじゃ…」「脳に腫瘍かなんかがあってその影響できちんと歩けないんじゃ…」と心配しまくり、ありとあらゆる診療科をたらい回しにされた。
いろいろ調べてもらったがどこもかしこも全く異常なしの超健康優良児で、結果「ただ単にめちゃくちゃ鈍臭い」というだけだった。
決して安くはないお金を、わたしは鈍臭さを確認するためだけに親に遣わせていた。

幼稚園・小学校ではただ単に転ぶだけだったが、中学校に入ってからは鈍臭さにくだらなさと派手さがプラスされ、それは高校まで続いた。
マット運動で後転に失敗して首を捻挫したり、スキー授業で転んで首を捻挫したり、家に忘れ物を取りに行こうと自転車に乗ってる最中に突然意識を失いコンクリートに頭を打ち付けて脳震盪を起こしたり、下校中に横から来たトラックに轢かれたり、バレーボールのサーブ練習でボールを打った瞬間腕を肉離れしたり、卓球をしてるときにピンポン球を追いかけて防球ネットを跨いだらそのまま倒れて脚を肉離れしたり、移動教室で階段をのぼっていたらぎっくり腰になったり、他にもいろいろあったがその度に同級生や教師を震え上がらせていた。
当時付き合っていた彼氏には「お前とは手をつないで歩きたくない、俺の命がいくつあっても足りない」とまで言われた。

高校の修学旅行前の職員会議では「あいつは絶対怪我をするぞ!」「ホテル付近の内科と整形外科と救急・夜間診療してる病院をおさえとけ!」「本人には絶対に保険証を持って参加させましょう!」という話し合いが行われたらしい。
4泊5日の修学旅行では周りの心配をよそに怪我なく楽しく過ごせたが、最終日の前日の夜になぜか奥歯に菌が入りそのせいで顔面がパンパンに腫れた。
先生たちが「クッソ〜〜〜!!!内科でも外科でもなく歯医者だったか〜〜〜〜!!!!」と悔しがった話は、卒業して8年経った今でも母校に行くと言われる。

大学に入って、周りもだんだんわたしの鈍臭さに慣れてきてくれた。
少し道が悪いところでは誰かしらが手を引いてくれるようになったし、一緒に歩いてる友達は「もうすぐ段差あるからね!気をつけてね!」と前もって言ってくれるようになった。
わたしはほんとうに周りの人たちの優しさに生かされている、怪我の功名とはこのことだと思う。

就職して周りにできるだけ迷惑をかけないよう自分なりに気をつけていたつもりだったけれど、それはあくまでも"つもり"に過ぎないので、週に1回脚立から落ちたり1日に3回棚に激突したりしていたら同僚から「もしかして鈍臭い…?」と聞かれることが増えた。

そうなんだよ、わたしは隠しきれないほど根っから鈍臭いんだよ。